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更新日:2020年1月23日
観光産業活性化プロジェクト
~県内観光事業者 経営者インタビュー Vol.9~
株式会社 信玄食品 代表取締役 中村 桂 氏
やまなし観光推進機構では、県内の観光事業等において頑張っておられる企業経営者のインタビューを通じて、キラリと光る取組みをご紹介しております。
今回は、甲州市に本社を構え、三代に渡り山梨県の名産品である「煮貝」の製造を行っている、株式会社信玄食品の中村 桂社長をご紹介いたします。
(2020年1月 取材)
山梨県の名産品「煮貝」とともに
株式会社信玄食品 沿革
昭和30年代より、創業者である中村寿朗氏と母の二人で納豆や餃子の製造からスタート。
昭和40年代に入り、餃子の具材を蒸す圧力釜の活用方法の一つとして、「煮貝」の製造に着手。
昭和43年 塩山工場を新築し創業。アワビの煮貝をはじめとする水産物冷凍食品の加工販売を開始
昭和44年 組織変更し、株式会社信玄食品となる。
昭和51年 大手商社との連携による海外原料入手ルートを確保
昭和59年 輸出部門を新設し、東南アジア等へのアワビの磯煮の輸出を開始
平成7年 創業者の中村寿朗氏の死去に伴い、母親の中村和子氏社長就任
平成17年 加圧加熱殺菌釜を増設
平成18年 新倉庫増設
平成19年 【信玄食品】、【甲州煮貝本舗】等商標登録
平成20年 農産部開設、学校給食、生協等への冷凍野菜、冷凍食品などの仕入れ販売開始
平成25年 中村桂氏社長就任
「煮貝屋」から食品製造業へ
―山梨名産の「煮貝」と言ったら歴史が古いと思っていたのですが、昭和43年と若い企業なのですね。
はい、私が三代目ですが、創業は父、寿朗の代です。
ただ、昭和43年は、本格的に「煮貝」の製造に着手した時期で、それ以前は私の祖母と父が、納豆製造や餃子製造を行っていました。
―納豆や餃子の製造から「煮貝」の製造に変更したのは何か理由があるのですか?
父親のチャレンジ精神からでしょうかね。
父が、餃子製造の際に白菜などを蒸すために使っていた圧力釜の有効利用を考えた際に、山梨名産品である「煮貝」の製造にたどり着いたと聞いています。
確かに、アワビを煮込む際に、圧力釜はとても有効に活用できますからね。
―ところで、社長は若くして事業承継されましたが、意識しておられましたか。
そうですね。やはり家業でしたので意識はしていました。はっきり意識したのは28歳ころだったでしょうか。そのころから、事業承継を意識して取り組み、今から7年前の39歳で二代目の母親から引き継ぎました。
―社長になるまで、社内で経験を積まれながら、自社の将来像を考えられていたのですね。
社長になるまで、時間をいただきましたので、いろいろな業務に携わりながら経験を積むことができました。それが今に生きていますね。
―経験を生かして他社との差別化で注力されたことはあるのですか。
はい、商品の柔軟な創り込みですね。
マーケットのニーズに応えるような味付けやパッケージなどは、差別化に注力しました。
特に、「煮貝」の「やわらかさ」にはこだわりを持ちましたね。
―「煮貝」の「やわらかさ」ですか。みな同じ硬さなのではないのですか。
いいえ、製造方法で歯ごたえは変わります。皆さん、煮貝は硬いというイメージをお持ちではないでしょうか。
―アワビ自体が硬いので、硬いものだと思っていますが。
そうかもしれませんね。でも、活きたまま茹でたアワビを煮貝にすると、歯ごたえの柔らかい「煮貝」になるのです。
一般的には、煮貝製造メーカーは、海外から冷凍アワビを仕入れて、日本で解凍後に煮込んでいますが、当社では、アワビを現地で活きたまま茹で上げた後に冷凍し、輸入後に煮込んでおります。
―茹でた後に冷凍するのと、活きたまま冷凍するのでは、アワビの硬さに違いが出るのですか。
はい、明らかに違います。一度食べ比べていただければわかりますよ。(笑)
アワビへのこだわり
―現地で茹でた後輸入とおっしゃいましたが、どちらから輸入されているのですか。
お客様のニーズに合わせて、世界各地から輸入しています。
例えば、近くは韓国や中国。遠くはオーストラリア、西アフリカやチリなどから輸入しています。
―海外からの茹でたアワビの輸入は、リスクが大きいのでは。
おっしゃる通りです。生産国の方々は、日本のように商品の扱いが丁寧ではありませんからね。従いまして、当社が求める商品を製造、提供してもらえるようになるまで、手間と指導に20年くらいは費やしましたかね。
―20年もですか。
根気よく指導してきたでしょう。(笑)
本当に苦労しましたよ。最初はなかなか私どもの要求を理解していただけませんでしたからね。とにかく、根気よく生産者に説明して理解してもらうことに注力しました。
特に、当社の製品は手作業にこだわっていますので、アワビに一粒の砂も残さないようにしっかり手作業で洗い落すことなどは、厳しく指導しました。
一粒でも砂が残っていることは、商品の評価や価値を下げる、ということを理解してもらうには本当に苦労しました。砂の一粒くらい、現地の従業員にとっては普通のことですから。(笑)
―やはり、海外からの仕入れは苦労が多いですね。社長が海外仕入れに際して注意していることはありますか。
一番は、信頼できる提携工場を探すことですね。常に当社の社員がついて現地で管理できるわけではありませんので、私たちの要求するスペックを確実に守った製品を提供してくれることができる提携先選びが肝ですね。
でも、しっかりした仕事をしてくれる提携先には、技術支援なども惜しまず行いますので、現地の提携工場は、毎年設備が進化していますよ。
―信玄食品のこだわりとして、世界各地からアワビを仕入れていると、HPに書かれていましたが、なぜ世界各地から仕入れるのですか。
はい、一年中、アワビをコンスタントに仕入れるためと、豊富なサイズを調達するためです。
―豊富なサイズを仕入れるためとは。
当社では、国内に多くのお客様を有しています。そのお客様の要望は多種多様にわたっており、お客様のニーズにお応えできるような商品提供を目的として、アワビのサイズにこだわっています。
―「アワビの煮貝」というと、お歳暮等で使われる手のひら位のサイズのものですよね。
そういうイメージはありますよね。でも、国内で「アワビの煮貝」を利用した商品を作られているメーカー様にとっては、皆さんがイメージしている「アワビの煮貝」では、とても高価なものになり、商品に使えないのですよ。
例えば、そろそろ皆さんはデパートやコンビニなどで「おせち料理」のカタログパンフレットを見かける季節になりましたね。
そのおせち料理の中央に、ちょこんとかわいいサイズの「アワビの煮貝」が乗っています。
中央に鎮座しているかわいいサイズでも「アワビの煮貝」なのです。あの場所に、皆さんがイメージする手のひらサイズの「アワビの煮貝」が鎮座していたら、とても1万円や2万円でおせち料理を提供できません。
ですから、当社ではメーカー様が商品として提供できる金額に応じたサイズの「煮貝」をご用意できるよう世界各地に調達先を確保しているのです。
―しかし、そのようなメーカー様のニーズにマッチしたサイズを大量にご用意できるのですか。
はい、できます。
今、養殖アワビは工業製品と同じで、10グラム単位でサイズ発注が可能です。50グラムのアワビを5000個というオーダーがあったら、50グラムから59グラムの範囲のアワビを5000個用意可能です。そのくらいの精度でサイズ調整が可能なのです。
ですから、当社ではお客様のニーズにマッチしたサイズの「煮貝」を常に用意できるよう、アワビのサイズにこだわり、世界各国から仕入れをしています。
―アワビも工業製品レベルで養殖できるのですね。
それでも、一か所で何サイズもというのは難しいですよ。ですから世界各国の生産地を把握して、各サイズに最適な産地から仕入れる努力が必要です。
製造工程へのこだわり
―製造工程においてもこだわりがあると聞きましたが。
はい、保存料、着色料無添加で常温保存が可能な商品づくりにこだわっています。
今までの「煮貝」を進化させるべく、製造工程にこだわって商品づくりを行っています。
―やわらかい「アワビの煮貝」というのも、製造工程のこだわりですか。
そうです。当社のアワビは、現地工場で茹でた後冷凍して、直接当社で輸入しています。しかし一度茹でてしまうと、アワビとしての調理の選択肢が限られてしまいます。
一般的には生の冷凍アワビを商社経由で輸入し、日本で解凍後に煮込んでいるメーカーが多いかと思います。商社は、生の冷凍アワビにしておくことで、調理の汎用性が高くなるため、そのようにしているのですが、現地で茹でた後冷凍にするか、現地で生のまま冷凍にするかの違いで、「アワビの煮貝」の硬さが変わってしまうのです。
―製造工程においてしっかりしたコンセプトをもって商品づくりをされているのですね。
もちろん、本物の味を安全に提供するということをベースに、製造工程においてもこだわって取り組んでいます。
―ところで、輸入アワビの話に終始してしまいましたが、国産のアワビを使った商品はないのですか。
もちろんあります。国内で茹でる生のアワビは国産のアワビを使用しています。ただ、国産のアワビはどうしても高価になってしまいますので、一個3万円くらいの高級指向商品としてご提供しています。こちらの商品も、日本一のアワビにこだわって作っていますので、ぜひ召し上がってみてください。おいしいですよ。(笑)
商品開発の努力
―商品開発にも積極的ですが、開発チームはどのような構成ですか?
私が商品開発のトップです(笑)商品開発しかしていないようなものです!
―社長自ら方向性を示しているのですね?
そうなんです。ベースはアワビの活用を軸に、新しいマーケットへの挑戦を検討する形です。
これまでは、12月は「おせち」や「お歳暮」等で多忙のピークを迎えるのですが、1月からは落ち込むことが多かったです。そこで、これまで培ったパッキング技術を活かし、レトルト釜や圧力釜を活用し、うどんやほうとう、レンジアップ御飯、お雑煮などの商品を開発したところです。
さらにこれらの商品は通年稼働するので、工場稼働率の平準化に寄与してくれます。
―商品開発に際してお客様の要望を伺いながら、とありますが、どのようなお客様からヒアリングされているのですか?
直営店を軸に会社とエンドユーザーをつなぐことを心がけています。
また、バイヤーさんの声も大切しており、最近ではショップチャンネルを通じてTVでもPRしているところです。
―最後に社長の考えている、アワビの煮貝の将来像と、貴社の将来像について教えてください。
山梨県の伝統である「アワビの煮貝」を次世代に繋ぐ責任があると考えています。「本物で間違いのない商品づくりを、しっかりやる!」ことが大事です。
また、食育として地元の松里小学校の6年生に煮貝造り体験を行ってもらい、卒業式に自分で作った煮貝を渡し、地域の名産品作りを理解していただき、地域の宝物だと思ってもらう取り組みもしています。
また、会社の将来像で大事なことは
100年後の絵を描くこと!
煮貝を作る技術を活かす!
マーケットインで多様化しているニーズを把握すること!
ですね。
―今日はありがとうございました。
「編集後記」
アワビの煮貝=高価なものといった考えしか持っていなかったが、多種多様な商品があることを改めて実感させられた。商品登録数も1,500以上であるとの事。基本的なことかもしれないが、商品の差別化や稼働の平準化など伝統商品を大切にしながらも生産性向上を目指して経営されている企業であると感じた。
余談になるが、甲府市内で「紅梅や」という和食店も関連会社として経営されており、ランチでお邪魔したいと何度か足を運んでいるが、常に満席である。社長に話を聞くと「山梨県産のモノ」にこだわって提供しているので高評を得ているとのことであった。
これからも伝統の名産品を守りながら、多様化しているニーズを把握し、多角的な経営をしていくであろう信玄食品に注目していきたい。
(公益社団法人やまなし観光推進機構 観光産業支援部 佐藤、観光物産PR部 海口)
株式会社 信玄食品(しんげんしょくひん)
〒404-0054
山梨県甲州市塩山藤木1870番地
TEL 0553-32-3324 / FAX 0554-32-3141
URL http://www.shingen-foods.co.jp
お客様のニーズに応えて~世界一のアワビ屋をめざして~