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更新日:2021年12月21日
新型コロナウイルス感染症の影響によりデジタル化が加速し、リモートワークなどのオンライン化やキャッシュレス決済などの非接触型のサービスの普及により、私達の生活は効率的になり利便性が高くなってきています。一方で、最近よく接触するのは消毒液と体温計くらいなもので、人とのふれあいや体験が昔と比べて疎遠になってきているように感じます。
加速度的に時代が変化しつつある中、あたかも時代に逆行するように「アナログ」や「ふれあい」、「非効率」の中に意義を見出した「馬」を活用した新たな観光サービスがあることをご存知でしょうか。こんな時代だからこそ、時間を”省く”のではなく”掛ける”ことで「贅沢」を味わってみませんか。
富士山の麓、富士吉田市には馬を活用した観光事業やイベント活動に挑戦し、地域の活性化に取り組んでいる「馬力屋」という会社があります。この地域では、かつて田畑を耕す「輓馬(ばんば)」や富士講の登山者や荷物を運ぶ「荷馬」が盛んで人と馬が共生する社会でした。馬は地域の文化にも深く根ざしており、小室浅間神社の伝統行事で山梨県無形民俗文化財に指定されている「流鏑馬祭り(やぶさめまつり)」は、平安時代末から800年以上も続く由緒ある神事です。しかし、近年では生活様式の変化や人口減少などにより祭りの担い手が少なくなり存続が危ぶまれています。そこで馬力屋ではこの伝統行事を守り後世に引き継いでいくため、観光事業やイベントなど、馬を身近に感じてもらう取り組みを通じて、若い世代が参加するきっかけにしたいとの思いがありました。伝統を重んじ後世へと継承するためには、馬を活用した事業を展開する必要があるのです。
小室浅間神社の伝統行事「流鏑馬祭り」 馬の蹄の跡で吉凶を占い、地域に災害や争い事が起きぬよう祈願します。
馬力屋では、お祭りや学校行事などへ馬を派遣する「出張ふれあい体験」や「神馬(しんめ)」が新郎新婦の門出を祝福する「うま婚」など様々なサービスを提供しています。今回は、今注目されている「馬車運行サービス」と「宅配サービス」をご紹介します。
ウェディング事業の「うま婚」
富士山と五重塔の眺望で世界的に知られている新倉山浅間公園。ここでは、2つの馬車運行サービスがあります。日常から離れた旅の道中、敢えて馬車を選択することをオススメします。パカパカと心地よいリズムを感じながら、富士吉田の街の風景を楽しみ、ゆったりとした時間の流れに身を委ねてみてはいかがでしょうか。
最寄り駅の下吉田駅から新倉山浅間神社までの1km・15分の道のりを案内してくれるのは、輓馬の「オーロ」くん。体はとても大きく力持ち。一般道路でも自動車の気配を察知して、素直に端に避けて自動車を先に通す利口なお馬さんです。信号待ちや踏切待ちもこなします。
最寄り駅の下吉田駅から出発するオーロくんが引く馬車
自動車と一緒に信号待ちをします。
富士急行線の踏切を渡ります。
信号待ちも白線の手前で止まります。
新倉山浅間神社から忠霊塔までの500m・10分の道のりを案内してくれるのは、木曽馬の「昭葉」くん。木曽馬は戦国時代、武田騎馬隊としても活躍し足腰が強く力強い一面、小回りが得意な馬です。昭葉くんは性格はおっとりしていて基本的には動きたくない子。ぼーっとしていて立ったまま寝てしまうこともあるそうです。神社から忠霊塔までの、咲くや姫階段398段を登るところを、昭葉くんが一生懸命に坂道を登り忠霊塔まで運んでくれます。忠霊塔についたら、「ありがとう」と首を軽く叩き、褒めてあげましょう。昭葉くんが喜びます。
新倉山浅間神社から忠霊塔までの坂道を昭葉くんが案内します。
紅葉を愛でながらスローな時間を過ごせます。
坂道、カーブもスムーズです。
1,000年以上前から機織りの町として栄えてきた富士吉田。織物工場の多い下吉田地区には「西裏(にしうら)」と呼ばれる昭和のレトロな雰囲気で人気の飲食店街があります。暖かい灯りと鮮やかなネオンに包まれたノスタルジックな昭和の飲食店街「西裏」をシェットランドポニーのタローくんがゆっくり案内してくれます。それはまるで、昭和にタイムスリップした感覚に陥ります。まさに時代(とき)を駆ける馬車です。
タローくんが夜の西裏を案内します。
昭和のレトロな街並みを巡ります。
もう一つのサービスは、宅配サービスです。コロナ禍によって客足が途絶えた地域の飲食店の力になろうと、馬車で飲食店のお弁当を届ける活動が始まりました。お弁当を運んでくれるのは、シェットランドポニーのベートーヴェン君。「弁当便(べんとうびん)」その名前に運命を感じてしまいます。Uber Eats(ウーバーイーツ)ならぬ「ウーマーイーツ」で人気者になっています。ベートーヴェン君はいたずら好きで、よく馬房から自分で出てしまうほど賢いようです。ウーバーイーツと違い「ゆっくり配達」、「ちょっと遅れることがあります」、「お弁当が少し食べられちゃう可能性があります?!」が売り。宅配に時間が掛かり非効率。でも、運ぶのはお弁当だけではありません。あなたに元気と笑顔もお届けします。届けられたお弁当は、“ウマい”に違いありません!
素敵な笑顔で元気いっぱい
通りすがりの学生も笑顔
お弁当と笑顔と元気を届けました。
たくさんの笑顔を届けるベートーヴェンくん
「王騎(おうき)」
小室浅間神社8代目の神馬。元「キングズオブザサン」の名前で競走馬として活躍。
「オーロ」
輓馬(ばんば)。九州で馬車を引いていたので馬車引きのベテラン。
「昭葉(しょうよう)」
日本在来種の木曽馬。農耕馬で足腰が強く力強い一面と小回りがきく体型。
「タロー」
シェットランドポニー。昔ポニーばん馬に出場し23戦20勝の実力者だったそう。
「ベートヴェン」
シェットランドポニー。いたずら好きで、よく馬房から自分で出てしまうほど賢い。
馬を活用した「馬力屋」の取り組みをご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。馬力屋では、馬を通して地域を盛り上げようとCSV活動(Creating Shared Value)※に挑戦しています。社員は皆、馬が大好きで馬愛に溢れています。「流鏑馬祭り」の伝統・文化を後世につなげる活動に情熱を持って取り組む姿に胸が熱くなりました。今後は、ゲストハウスとの連携や「ホースセラピー」、「ウマリンスポーツ」、「BAR車」など、馬を活用した様々なサービスを考案中とのことです。
※ 社会的なニーズや問題の解決に取り組むことで社会的価値と経済的価値の創出を実現し、成長の次なる推進力にしていく活動のこと
流鏑馬祭りに参加する馬力屋の荻窪さん
今後さらなるデジタル化が進み、私達の生活がますます便利になるにつれて、アナログ過程にあった大事なものが失われていくようにも感じます。こんな時代だからこそ、時代の流れから一旦立ち止まり、今までの生活を振り返ってみるのも良いかもしれません。
(取材・文/小川)
馬力屋の活動はこちらから
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