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更新日:2019年6月24日
やまなし観光推進機構では、県内の観光事業等において頑張っておられる企業経営者のインタビューを通じて、キラリと光る取組みをご紹介しております。
今回は、“花火の里”として名高い市川三郷町にて、玩具花火専門店(有)タチカワの代表、立川靖さんにお話をお伺いしました。
(彩り鮮やかな手持ち花火の数々)
有限会社タチカワ 沿革
昭和32年 地元市川の花火職人でもあった先代が玩具花火問屋として創業
平成 8年 立川靖 氏が代表就任
平成20年 玩具花火の小売りを始める
平成27年 「はなびかん」として店舗をリニューアルオープン
「卸売り問屋が小売りを」
―意外にも小売りを始めたのは最近なのですね。
昔、おもちゃ花火は町の「よろずや」で季節的にバラバラと販売しているだけでした。
地元市川の花火職人だった私の父が、もっと売れる場所はないか?もっと売れる方法はないか?
と考えて、“七五三の飴”を参考にしてセット売りを思いつき、花火のパッケージ販売、いわゆる「おもちゃ花火セット」の販売を始めました。
パッケージ販売を始めたのはうちが全国初だと自負しています。
―確かに千歳飴みたいな感じですね!
思い返せば、高度経済成長期のただ中、企業や団体向けにこの「おもちゃ花火セット」の卸売が大ヒットしたものでした。
おもちゃ花火を売り始めた頃、うちはまだ卸売り問屋だったんです。
(通りに目立つ看板を設置)
―現在、小売、いわゆるリテイラーに逆風が吹いているといわれますが、どうして今、小売りの店舗をリニューアルオープンされたのでしょう?
コンビニや量販店があちこちにできてきて、おもちゃ花火セットの販売を始めるようになってくると、うちの仕事も変わってきました。
極端に言うと、ただただ安く卸すことや物流だけにしか気を使わなくなってきていたのです。
そんなことを繰り返してるうちに、価格重視でクオリティーが置き去りになっていると強く感じてきたのです。
加えて、子供が少なくなってきて販売額が減少し、全国でも花火工場が減り輸入物が多くなってきました。
―寂しい話ですね。
ここは“花火の里市川”(市川三郷町)ですし、うちにはこれまで続けてきた事業の中で得られた全国の花火製造業者とのネットワークがあります。
また、国産の花火のクオリティーを誰よりも分かっているつもりです。
日本の花火が本来持っている魅力を伝えるためにお客様へ直接販売できる小売りを始めたのです。
「商品を選ぶ楽しさを提供」
(一つ一つの商品にPOPで丁寧な説明)
―小売りを始めてみていかがでしたか?
やはり始めのうちは、PRもしっかりできておらずに来客はまばらでした。
それでもまず広告ではなく、来ていただいたお客さんに満足してもらうことを優先に店づくりをしていきました。
看板を分かりやすくしたり、商品説明のPOPを心を込めて作ったり小さい工夫の積み重ねでした。
―確かに商品のPOPがたくさんありますね。
「ただ売る」というだけではこれまでと同じことになってしまいますから。
セット売りを並べるだけの売り方だと、説明もなく外側の見た目だけになってしまっています。
そこにも私は不満を感じていました。
―POPを読んでいると火をつけた時の期待度が上がりますね。
そうなんです。お客さんによって好みも違いますし、こんなに多様なおもちゃ花火があるからこそ、選ぶ楽しさを提供したかったんです。
そして実際に火をつけた時も決して期待を裏切らないんです。
リピーターのお客さんは「この花火を何本、あの花火を何本」と決めて買いに来てくれます。
売っているモノの良さを感じてもらえたからこそだと思いますし、お客さんから笑顔で感想を聞かせてもらえる瞬間がとても嬉しいです。
(ハイクオリティな花火を1本ずつ選べる)
―国産の花火の特徴は何でしょうか?
まず一つ一つが手作りでとても丁寧です。ムラなくじっくりと火が広がって行く感じで遊んでいて安心感があります。
また、日本の風土に合った香りを感じます。私自身が子供の頃から慣れ親しんでいたせいかもしれませんが(笑)
(明るい光が長く続くから写真も撮りやすい)
―県内のお客さんが多いのでしょうか?
それが、意外なほど静岡からのお客さんが多いんですね。
「看板を見てスゴク気になっていた」とおっしゃる方が多いです。
ある時、たくさん購入していくお客さんがいたので話を聞いてみたら、静岡で旅館を経営されている方でした。
どうも何度か買いに来ていただいていたようで、旅館の宿泊者にたいへん喜ばれるようです。
―浴衣で花火は雰囲気ありますよね。
「おもちゃ花火は日本の伝統的な遊び」
(ちかはぎ空の家のタチカワセレクト花火)
県内でも同じ市川三郷町に今年オープンした農泊を営む方が、「地元の魅力を伝えたい」と私のセレクトした花火のセットをオーダーしてくれました。
―バラ売り→パッケージ売り→バラ売り→パッケージ売り と移り変わりますね(笑)
その農泊のお宿さんは「ちかはぎ空の家」というんですけど、フランス人家族の旅行者が宿泊された際に、花火を楽しんでくれたそうです。
始めは「子供に火薬を使わせるなんて!」という感じだったそうですが(笑)。
―確かに「火薬」ですね。
それでもおもちゃ花火は江戸時代から続く日本の伝統的な風情ある遊びであることを伝え、安全な遊び方もレクチャーして体験してもらった結果、その繊細さにとても感動してくれたようです。
宿泊業のような他の業種の方と連携できたのが嬉しかったです。
(タチカワセレクト花火を楽しむフランス人家族)
―海外ではおもちゃ花火は一般的ではないのでしょうか?
海外では、年明けやお祭りの際に打ち上げるモノ、という認識ですね。手持ちで遊ぶ花火があっても色があまり無いのがほとんどです。
また、音を楽しむという側面もあるようです。爆竹とかのイメージですね。
火薬の平和利用をここまで進化させてきたことは日本が世界に誇れる文化です。
日本の風景や製品だけでなく、花火からも日本の「わびさび」を感じ取ってもらいたいですよね。
―今年、県内でおもちゃ花火のイベントが開催されますね。
富士河口湖町観光連盟さんが、県内各地の観光協会に声をかけてくれて、我々市川三郷の花火関連事業者の集まり「神明の花火倶楽部」が一緒になって、観光客におもちゃ花火を楽しんでもらおうという企画です。
既に高い評価を受けている神明の花火大会だけではなく、「ここへ来たらこんな楽しみもある」という次元にまで高めていきたいです。
―ただ売る、だけではなくなってきているのですね。今後について展望をお聞かせ下さい。
都市部ではおもちゃ花火を体験できない子供も増えているでしょうし、また花火は「火薬」です。
安全な遊び方やマナーの啓発にも日本煙火協会と連携して取組んでいきたいです。
また、全国には素晴らしい花火を作っている業者がいますが、価格だけで選ばれてしまっている今の状況ではなかなか販売促進が難しい。
より上手に売れるように小売をブラッシュアップしていって、花火製造業者の販路になりたいと思っています。
小売りを始めてお客さんに接することでニーズがより感じ取れるようになりました。
いつかはお客さんの好みを反映させたタチカワ特注花火を販売したいですね。
あとがき
企業はそのライフサイクルの中でマーケットの動向、産業構造の変化に適応していかなければならない。
(有)タチカワはこれまでの事業で得られた自社の強みを生かし、卸から小売へと新たな業態に挑戦しているが、商品の持っている魅力を伝え、期待を生み出すという小売の基本が徹底されている。
また、マーケットの縮小という会社の経営課題に真剣に向き合い、克服に努めている。
20年、30年先にも、この日本のおもちゃ花火の伝統を子供・孫と楽しんでいたいものです。
(公益社団法人 やまなし観光推進機構 ツーリズムビジネス活性化センター 廣瀬)
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