ここから本文です。
更新日:2020年4月27日
~県内観光事業者 経営者インタビュー Vol.8~
光織物 有限会社 代表取締役 加々美 好 氏
富士吉田の織物産業とともに
やまなし観光推進機構では、県内の観光事業等において頑張っておられる企業経営者のインタビューを通じて、キラリと光る取組みをご紹介しております。
今回は、戦前から富士吉田市内において、「ふじやま織」を広めるべく、3代に渡り機織業を営んでいる、富士吉田市に本社を構える光織物有限会社の加々美 好社長をご紹介いたします。
(取材:2019年10月)
光織物 有限会社 沿革
戦前、加々美 自琢氏(好社長の祖父)が材木屋から機織屋(はたおりや)への業種転換時から、富士吉田市内で機織業を開始。
戦後、火事により、機織工場及び機械を焼失したことから、機織事業は大幅に縮小し、呉服販売業を主力事業とした。
昭和33年 光織物 有限会社に法人化して、再び機織業に注力
昭和48年 現社長である加々美 好 氏が京都の織物問屋の修業を終えて家業に復帰
平成2年 加々美 好 氏が社長就任
平成7年 新社屋建設
平成13年 オリジナル商品である「貴船緞子」の商標取得
平成24年 「kichijitsu」ブランド設立
平成28年 自社新工場建設
「ふじやま織」への思い
―社長で3代目ですが、織物業を事業継承するについて不安はなかったのでしょうか?。
子どものころから家業を見ていましたから、家業を継ぐのは当然だと思っていました。
また、自分自身も織物が好きでしたから、特別不安をもって引き継いだわけではありません。
逆に、自分で事業を行うようにならないと、自分のやりたいことができないと思っていたので、事業継承をしたことで、思ったことを決定して実行できることの嬉しさのほうがありました。
―御社の得意とする金襴緞子(きんらんどんす)について教えてください。
「金襴緞子」と言っても、今の方々はすぐにイメージできないですよね。
簡単に説明すると、「華やかで贅沢な美しい織物」という意味の織物ですので、結婚式の和装の時に着る色打掛など、色柄の華やかなキラキラしている着物や帯を想像していただければわかりやすいでしょうか。
もとはといえば、天皇陛下の正殿の儀即位の礼の時に、皇后陛下がお召しになられるお着物や結婚披露宴の際の新婦のお召し物が代表的なものです。「金襴緞子の帯締めながら、花嫁御寮はなぜ泣くのだろ」という歌もありますよね。
でも、もっとも「金襴緞子」が使われているのは、雛人形の衣装としてなんですよ。皆さんの身近にもあるということです。
―なるほど、御社の社名である「光織物」は、金襴緞子のキラキラが由来なのですね。
ハハハ、そう思われました(笑)
実は、社名である「光織物」は、先代社長である叔父の名前、「光雄」が由来となっているのです。皆さん、金襴緞子のキラキラが社名の由来と思っていただいてますけどね。(笑)
あまり深い意味はなかったのですが、今となっては、当社の製品を象徴するようななかなか良い社名ですよね。
【金襴緞子 生地見本】
―でも金襴緞子のような伝統的な織物は消費量が減少しているのでは。
確かに、そのように思われますよね。でも、少し違うのです。
先ほどお話ししたとおり、結婚披露宴でも和装をする人も減り、また、雛人形も簡素になっているので、今まで主要取引先であった分野では減少しています。
しかし、私どもも少し驚いているのですが、最近は、お祭りの衣装として「金襴緞子」の新たな使い方をする方々が現れており、例えばヨサコイ祭りなどの踊り手の衣装として利用されるのですよ。
―そのような分野の営業開拓もするのですか。
いいえ、私達は機織り(はたおり)が専門ですので、営業開拓部門は、織物問屋さんに任せています。ですから、踊り手の衣装としての利用は、問屋さんの営業努力なんですよね。
今までは、そのような関係でよいと考えていたので、なかなか皆さんに富士吉田が織物の産地であると認知されなかったのです。
問屋さんに任せてばかりいては、富士吉田で頑張っている機織屋は、市場ではあくまでも下請けとしての黒子に甘んじることになってしまいますよね。
―おっしゃるとおり、この富士吉田地域を織物の産地として認識している方は少ないですね。
はい、山梨県民でも、富士吉田を含め、郡内地域(山梨県東部地域)が織物の産地であることを知らない方が多いです。このままでは、織物の産地として衰退してしまうのではないかという危機感がありました。だから私は、それではいけないと思い、「富士山織(ふじやまおり) メイド イン ふじよしだ」として、私たちが作り出すオリジナル織物製品をブランド化して発信しなければいけないと考えて取り組んでいるのです。
―それは「今治タオル」がブランド化したようにでしょうか。
そうですね。つい数年前までは、今治がタオルの産地であることなど、多くの方々が知らなかったですよね。でも、いまでは「今治タオル」と言えば、高級国産タオルというイメージで、商品価値を高めることに成功しましたよね。私たちも、そのような道を歩みたいと思っています。
―ブランド化するに際して、「ふじやま織」の特徴を教えてください。
「ふじやま織」の特徴は、なんといっても細い糸を使用して密度の高い織り方をしていることです。従いまして、密度が高いことから普通の生地よりも重いです。しっかりした生地になっているということですね。
また、細い糸を使用していることから、デザインや色柄について繊細な表現が可能になるということです。
そのような、「ふじやま織」の特徴を評価していただき、パリのオペラ座バレー団のステージ衣装用の生地として採用されました。
ブランド化に向けての商品開発
【オペラ座バレー団舞台衣装】
―「富士山織(ふじやまおり)」をブランド化するために取り組んでいることは。
はい、10年くらい前までは生地の反物を製造する下請けがほとんどでしたが、ブランド化をするために、自分たちが作る生地を使った「魅力ある商品」を作り、消費者の皆様に生地としてではなく、商品として目で見て触れていただくことで、「ふじやま織」のファンになってもらうことに取り組んでいます。
―具体的にどのような商品があるのですか。
最近で言えば、「GOSHUINノート」など人気がありますね。
【GOSHUINノート】
―「GOSHUINノート」とは。
皆さん御朱印帳はご存知かと思います。通常の御朱印帳をイメージしてください。今までの御朱印帳は落ち着いた色味のものが多かったのですが、おめでたいカラフルな柄で、若い人でもこれから御朱印を始めたい人でも手に取りやすいデザインにしました。
現代っぽいデザインでありながらも織物で表現することで新しい御朱印帳ができました。
―でも、ネーミングは「ノート」なのですか?誰でも手に取りやすいネーミングですね。
はい、私どもにそのようなネーミングをつける発想はありませんでした。
ノートと名付けることで御朱印帳をより若い人にも身近なものにしたかったようです。
学生さんとのコラボレーション
―では、誰の発想なのですか。
じつは、11年ほど前から東京造形大学の学生さんとの産学官連携を活用したコラボ商品づくりに取り組んでいるのです。その中から生まれた商品ですので、ネーミングも含めてすべて学生さんのアイデアです。
―「GOSHUINノート」は、学生さんのアイデアですか。
はい、そうです。生地のデザインや使用する糸の色まで細かくデザインし提案してくれます。
本当に学生の皆さんの発想は豊かで、私たち機織屋は驚かされることが多いです。ですから要望も複雑で、機織屋としてついていけないことも多いですよ(笑)
―新商品は学生さんの発想ですか。
そうです。デザインからネーミングまで考えてくれます。
「GOSHUINノート」を入れる袋も考えてくれまして、名前は「ごいっしょぶくろ」ですよ。いい名前でしょう。(笑)
「kichijitsu」として、2012年よりブランド展開し、東京造形大学卒業後も専属のデザイナーとして商品企画、デザインをしてくれています。
【ごしっしょぶくろ】
ー「kichijitsu」ですか。由来は。
元々、和物の生地を製造しているため、学生さんとのコラボの際に「新しい和」をテーマに商品を企画してもらいました。そこから金襴緞子などにも描かれる吉祥文様や縁起物をモチーフにたどり着き、「毎日が吉日でありますように」というコンセプトからブランド名を「kichijitsu」としたそうです。
和の雰囲気がありながらも現代の生活になじむような商品を展開しています。
ー「kichijitsu」ブランドには、何種類くらいのシリーズがあるのですか。
「GOSHUINノート」の他に、「おまもりぽっけ」や「ごきげんぽーち」などシリーズは6種類になりますね。それぞれ色々な柄を展開しているのでそれも含めるとかなりの数となります。
また、「kichijitsu」の他にも、別の学生さんによる銭湯や温泉をイメージした新しいブランド「IIYU TEXITILE」も今年スタートしました。
【IIYU TEXITILE バック】
―学生さんの発想やデザインに抵抗はありませんでしたか。
抵抗というよりは、正直驚きの連続でした。今までは、伝統的な生地を扱う問屋からの要望を受けて生地を生産する立場でしたので、学生さんの考えるデザイン商品を作って、本当に商売になるのかな、ブランド確立はできるのかな、と半信半疑でした。(笑)
でも、ギフトショーに出展して、学生さんが作り出した商品に対する反応の良さに自信を得ることができましたね。
【きっかけとなったギフトショーの展示】
―機織屋の皆さんが商品を作るに際して苦労したことはありませんでしたか。
もちろんあります。特に、生地を加工する技術が、この地域になかったことです。従いまして、商品化当初は、「GOSHUINノート」の表装などの加工は、全て京都の業者に依頼しなければなりませんでした。
―今も加工は京都の業者さんですか。
いいえ、学生さんとのコラボ商品開発を始めたことで、「富士山織 メイド イン ふじよしだ」を確立する上で、自分たちに欠けていたもの、それは加工技術だ、ということを認識することができました。
いまは、加工技術の習得に取り組んでおり、成長しています。
―ブランド化の基礎ができてきたということですね。
そうですね。「メイド イン 京都」というわけにはいきませんから(笑)
―ところで、機織屋さんが商品を作るようになると、既存取引先の問屋さんの商品とバッティングすることがあるのでは。
その可能性もありますので、新商品の選考に際しては、「問屋の邪魔をするような商品は作らない」ということを徹底しています。
「ふじやま織」とのふれあい
―しかし、生地のデザインの種類が豊富で、どのようなデザインを購入するか迷ってしまいますね。
そうですね。たくさん種類はありますからね。(笑)
また、弊社の金襴緞子を選んでお客様自身で御朱印帳を作るワークショップも行っています。表紙や裏表紙の生地を選んでいただき、世界に一つのお客様だけの御朱印帳を手作りしていただけるようにご用意しております。
【GOSHUINノート手作りパーツ】
―自分でオリジナル御朱印帳を作れるのですか。
はい。ご自身で作っていただけます。生地もご自身で選ぶことができますので、どうぞ悩んでください。(笑)
―それは、女性には人気が出そうですね。
確かに、ほとんど女性の参加者ですね。でも、御朱印帳ですので、男性の方も、自分のオリジナルを作れますよ。決して女性的な生地だけではありませんし、男性向けデザインの生地もありますから、男性の方にもお客様だけの御朱印帳を作っていただきたいですね。
ご夫婦でおつくりになっても素敵かもしれませんよ(笑)
【GOSHUINノート ワークショップ】
―私も奥さんと一緒に作りに来てみたいと思います。
ありがとうございます。是非お越しいただき、体験して下さい。
但し、各自の手づくりですので、どちらが上手にできた、などケンカしないでくださいね。(笑)
そして手作りしていただくことで、富士吉田が織物の産地であることをPRしていただくとともに、富士山織の生地のすばらしさを実感していただきたいと思います。
―自分自身で生地に触れることで、ストーリーや愛着がでますね。
多くの皆様に、富士山織に直接触れていただいて、生地のすばらしさを実感していただくとともに、思い出となるような品々を自身で作っていただくことで、より一層富士山織に愛着を持っていただき、富士山織のファンになっていただければ嬉しいですね。
愛着を持ってくださるお客様が増えることが、ブランドとして確立されることにつながると思っています。
―今日はありがとうございました。
「編集後記」
富士吉田(郡内地域)の織物の歴史は古く、「延喜式(えんぎしき)」(967年)という当時の書物には、「甲斐(山梨)の国は布を納めるように」という記述をみることができます。2000年の歴史がある日本の中でも、1000年以上続く産地はそう多くはなく、富士吉田市や西桂(郡内地域)の織物は「郡内織物」や「甲斐絹(かいき)」として人々に親しまれてきました。
江戸時代において、この郡内織物は、井原西鶴の「好色一代男」や「好色一代女」に郡内縞として登場し、上流社会において広まり、現在にその名を残すほど評判になりました。
京都では偽物まで出回るほどだったことから甲斐絹の評判が高かったことが伺えます。
さらには、この地域には機織にまつわる言い伝え「徐福伝説(じょふくでんせつ)」というのもあります。
遡ること紀元前3世紀頃の話。秦の始皇帝の命により、徐福(じょふく)は、不老不死の薬を求めて富士の麓、(現在の富士吉田市)にやってきます。しかし、その薬を見つけることができず、この地に定住し、徐福らが養蚕・機織の技術をこの地の人々に教えたというものです。
このような話から、昔からこの郡内織物がこの地域と深い関係にあることがよくわかります。
現在では、伝統的な郡内織物にデザイン系の大学生とコラボレーションした斬新なデザインの商品が登場するなど新しい動きが出てきています。
御朱印帳、座布団、ネクタイやバッグ、洋傘、今後の郡内織物に期待したいと思います。
オープンファクトリーへの誘い
再び脚光を浴びつつある富士吉田の織物。興味はあるものの、敷居が高い、と感じている人もその機織の雰囲気を気軽に感じられる良い機会があります。
その名もオープンファクトリー。毎月第3土曜日、富士吉田市(郡内織物)の織物工場が見学できるというイベントです。
ネクタイ、座布団、バック、傘に生地。中には、その場所でしか見られないものもあります。ハタオリマチの織物工場にぜひ足をお運びください。(工場の都合により、工場見学を行っていないところもあります)
詳細はこちらから↓
ハタオリマチのハタ印
http://hatajirushi.jp/home(外部リンク)
※開催については、新型コロナウイルスの状況を考慮しながら判断となります。
詳細は、上記ホームページをご確認ください。
(公益社団法人やまなし観光推進機構 観光産業支援部 佐藤、地域づくり支援部 清水)
光織物(ひかりおりもの)有限会社
〒403-0016
山梨県富士吉田市松山一丁目4-13
TEL 0555-22-1384 / FAX 0555-72-8133
URL http://www.hikari-textile/com
Related facility
経営者インタビュー 前回記事へ |
「ふじやま織」がおりなす「彩り」を伝う ~「メイド イン ふじよしだ」が生む彩りを追って~