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更新日:2021年11月1日
「塩ノ山」はJR塩山駅北口から登山口まで徒歩で約15分、甲府盆地の東端にポツンと佇む低山で、甲州市のシンボルとして市民に親しまれています。塩山駅に到着の際に、目の前でひと際存在感を放つ山ではありますが、実際に登ったことがない方や「塩が取れるのでは!?」と思われている方も多いのではないでしょうか。今回、実際に「塩ノ山」を登ってきましたので、その様子などをレポートします。
標高553m(山麓が標高約400mなので、山としての比高は約153m)、周囲約3.5km、周りが山などに囲まれていない平地にあり、ぐるっと一周まわることができる珍しい山です。そのため「四方からよく見える山」「しほうのやま」から、「しおのやま」と名付けられました。地元の人は「えんざんやま」とも呼んでいます。“塩”の山ということで、「塩が取れるのでは!?」と思われていますが、実際はとれないそうです。また、山の南側にある向嶽寺の山号として、「しお」に「塩」の字が充てられています。「塩山」という地名は、実は向嶽寺を指すものだったのです。
塩山駅北口から徒歩10分。塩ノ山の南麓を源泉とする塩山温泉郷は、開湯600年以上といわれる歴史ある温泉郷で、南北朝時代、臨済宗・向嶽寺の開祖である抜隊(ばっすい)禅師が塩ノ山の麓で発見されたといわれています。当時、温泉郷の管理は向嶽寺が行っており、薬湯として多くの湯治客を集めました。また、温泉場で起きた問題事はすべて向嶽寺に届けられて処理されていたとのことです。明治時代に入ると管理が民間に移り、明治36年(1903)に中央線が開通すると、温泉客で賑わいました。現在では6軒の温泉旅館が営業しています。そのころに創業した廣友館は当時の面影の残る風情のある建物で、その歴史を感じることができる湯宿です。
当時の面影の残る「廣友館」外観
「塩山温泉元湯の地」の碑
「塩ノ山」山頂からみた富士山
廣友館の先にある「塩ノ山自然遊歩道入口」から遊歩道が整備され、30分程度で山頂まで行くことができます。途中に数か所の休憩所もあり、気軽に登ることができる山として人気です。平安時代の「古今和歌集」には、「志ほの山(塩ノ山) 差出の磯に 住む千鳥 君が御代をば 八千代とぞ鳴く」と詠まれています。当時、京都にあった都の宮廷歌人の憧れの地として、多くの歌に詠まれていることから、歌を聞いた人たちにとっても、憧れの地になったのではないでしょうか。天気が良ければ頂上の真南(子午線上)に、富士山の山頂を望むことができるので、「隠れたパワースポット」としても密かな人気があります。
「塩ノ山」山頂の標高553m
古今和歌集に詠まれた「塩ノ山」
塩ノ山を下山した先に「向嶽寺」の境内が広がります。向嶽寺は南北朝時代の康暦2年(1380)に、抜隊得勝(ばっすいとくしょう)禅師により開山されました。夢で富士山を見たことに因み、富士山を望む塩ノ山南麓に建立されました。山号を塩山といい、臨済宗向嶽寺派の大本山です。境内は南北300m、東西170mと広く、北側には塩ノ山の山裾を利用した庭園が広がります。庭園は一般公開日を除き拝観できませんが、山梨県内にある4つの国指定名勝の一つに数えられる貴重な文化財です。(県内名勝:向嶽寺庭園(甲州市)、恵林寺庭園(甲州市)、猿橋(大月市)、富士五胡(富士河口湖町、山中湖村、身延町))
「向嶽寺」仏殿
向嶽寺は応永32年(1425)の火災をはじめ、幾度も火災に見舞われています。境内のほとんどの建物を焼失するなか、中門だけが残っており、室町時代の禅宗様四脚門の代表的遺構として国の重要文化財に指定されています。中門にかかる扁額に、抜隊禅師書の「塩山」をみることができます。
国の重要文化財の向嶽寺「中門」
抜隊禅師書の「塩山」が記された扁額
その相次ぐ火難の消除の願いを込め、元文4年(1739)に静岡県の秋葉三尺坊大権現(火伏の神)を塩ノ山山頂に祀り、明治時代に山が国有地となったことを機に、向嶽寺の境内に移されています。お堂の中には、檜皮葺(ひわたぶき)屋根の旧社殿が安置されています。
火伏の神を祀る「秋葉神社」社殿
いかがだったでしょうか。甲州市にお越しの際はぜひ、「塩ノ山」登ってみてください。今回はご紹介していませんが、駅前には国の重要文化財の「甘草屋敷」や、道中には登録文化財の「飯島家長屋門」など、昔ながらの景観を残す建物などもあるため、登山口までにも楽しめるポイントがあります。山には遊歩道と休憩所が整備され登りやすく、いい運動になりました。
今回、ご同行・ご案内頂いた甲州市文化財課と観光商工課の皆様ありがとうございます。「塩対応」ではなく「よい塩梅(あんばい)」にて、親切・丁寧なご案内を頂きましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。
実際に四方から見ることができて、車で回ることのできるスポットもご紹介します。見る角度によって形は様々ですので、お気に入りのスポットを見つけてみてはいかがでしょうか。スポットや周辺は観光地にもなっているので、季節によってはフルーツ狩りなども楽しむこともできます。
牛奥みはらしの丘は、甲府盆地をぐるっと回る広域農道「フルーツライン」沿いにあるスポットです。塩ノ山の南側に線路が走っているので、電車を入れての撮影にオススメです。
「甲州市勝沼ぶどうの丘」は、約180種類の山梨県産のワインを試飲することのできる「ワインカーヴ」や、甲府盆地を一望できる露天風呂「天空の湯」もあります。
山梨県に住み始めて3年になりますが、「塩ノ山」はずっと気になっている山でした。天気も良く、頂上から見える富士山や甲府盆地の景観を見られたことで、とても清々しい気持ちになりました。個人的に四方から見える景観が気になったので、行きやすい場所をリサーチし、天気の良い休みの日にバイクを走らせました。木などに遮られず見渡せる、ベストスポットを探すことに少し苦労しましたが、心のアルバムにも思い出として記録することができました。
写真・文/大藤 雅興
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