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更新日:2021年3月25日
豊かな自然に恵まれた八ヶ岳の地で、古くから酒造りにいそしむ蔵元のひとつ、谷櫻酒造。嘉永元年(1848年)、小さなお神酒酒屋として酒造りをはじめ、創業時、敷地内から大量の古銭が出土したことから、“古銭屋”と称され愛されてきました。時代が移り変わり、杜氏の技をデータ化したり、酒造工程管理をシステム化するなどの進化が目覚ましい現代においても、あえてなお、谷櫻酒造は手造りによる伝統製法を守り続けています。昔ながらの道具、蔵人の経験に裏打ちされた技と勘…機械化しないという選択の先にあるのは、「ただおいしい酒を届けたい…」という、酒造りに真摯に向き合う人々のシンプルな想い。「酒を工業製品化したくない」という4代目現社長、小宮山光彦氏の考えこそが、酒の原点を見つめ続け、“昔ながら”が減っている今でも、「人の手」にこだわる理由なのです。
自然豊かな八ヶ岳南麓、北杜市大泉町に位置し、県道608号長沢小淵沢線から1本入った静かな場所にあります。寒さが厳しく、乾燥した冬の八ヶ岳の気候は、仕込みの時期に雑菌などが発生しにくく、酒造りには最適な風土です。清らかな伏流水に恵まれた自然の力に支えられながら、谷櫻酒造はこの地に根差した地酒を造り続けています。
敷地内には昔と変わらず川が流れる
“古銭屋”と親しまれてきた谷櫻酒造
敷地内には昔と変わらず川が流れ、天気のいい日には、風にたなびく洗濯物が。「酒造りは、洗いに始まり洗いに終わるといっても過言ではないくらい、本当に洗濯が多いんですよ」と教えてくれたのは、専務取締役の小宮山はつみさん。「酒造りには、布が必要不可欠。酒米を蒸すときも、麹の仕込みにも、絞り出しにも、あらゆる工程で布を使います。昔ながらの殺菌方法は熱湯消毒と日光消毒なので、常に洗濯に追われるんです。太陽の下でたなびく大量の洗濯物は、私が小さなころから見慣れている、酒造りの風景のひとつです」と、はつみさん。今も昔も変わらない、酒造りのワンシーンがここにありました。
頻繁に使う布は天日干しが必須
洗いに始まり洗いに終わる酒造り
100%自社精米した米と、こんこんと湧き出る八ヶ岳の伏流水。自然の恵みを最大限に活かし、杜氏を筆頭に、ワンチームとなって長い時間をかけて取り組む酒造り。谷櫻酒造では、酒母を手作業で造るという1700年ごろに確立した、日本古来の伝統的な醸造法「生酛造り」を採用しています。自然の微生物の生存競争を利用するため、日本酒本来のありのままの旨味を引き出せるのが最大の魅力ですが、これには通常の倍以上の手間と時間がかかるため、現在では希少となっています。それでもこだわり続けるのは、「生酛造りでしか出せない独特の魅力」があるからだそう。「奥行きがあり、雑味のないキレのある味わいは、厳しい中で生き抜いた酵母のたくましい生命力、そのものです」(小宮山はつみさん談)。
酒造りの原材料となる米はすべて自社で精米
酵母の様子を見ながらゆっくりと発酵させる
ゆっくりと発酵を進めたもろみを、搾りによってお酒へと完成。大吟醸ではこちらも伝統的な槽(ふね)搾りで行っています。布袋にもろみを詰めて、ふねと呼ばれる入れ物に積み重ね、木の蓋をして上からプレスして搾るという方法。ゆっくりと圧を加えるため、よい部分だけが搾られ、時間も労力もかかりますが、その分美味しさも格別。糟もやわらかく、厚みがあり、魚を漬け込んだり甘酒にしたりと大人気なんだとか。
伝統的な槽(ふね)搾りが健在!
170年の面影を残す貯蔵庫は神聖な雰囲気が漂う
もろみがお酒として誕生し、至福の1滴に
敷地内のショップでは個性豊かな日本酒を販売
敷地内にあるショップには、そんな谷櫻のデータ化しないで人の力で手造りした、個性が光る様々な日本酒がラインナップ。有機栽培米100%で造った「サクラサクラ」や屋号が付いた純米大吟醸の生酒「古銭屋の酒」、低温で5年以上熟成させたとろりとした味わいの古酒「古銭屋秘蔵酒」をはじめ、あけの金時(サツマイモ)を使用した日本酒製法で作った芋酒など、珍しい1本と出会えます。
※コロナウイルス感染防止対策のため試飲・蔵見学は現在中止
食中で楽しめる1本に出会える
あけの金時を使い日本酒製法で造ったお酒
今も昔も変わらないのは「美味しいお酒を造る」こと。「変わらないこと」を大切に、昔ながらの造り方にこだわっています。一方で、古の醸造方法で新たな開発をと、あけの金時を使った芋酒や、山梨県産の梅を生酛造りの日本酒と氷砂糖でじっくり漬け込み、梅の香りを残しながら甘みを極限まで抑えた、食事とともに楽しめる梅酒などにも取り組み、販売しています。お酒は百薬の長、ぜひお食事と共にご堪能ください。
谷櫻酒造有限会社 専務取締役 小宮山はつみさん
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