お客様に自然と楽しく触れ合える場所を、と軽い気持ちで始めた牧場でしたが、気付いたら、生涯続けて行きたい価値のある仕事と思うほどになっていました、と話す「ふじさん牧場」代表の藤田太一さん。東京育ちで畜産については知識も経験も全くなかったそうですが、周りの人々に指導を仰ぎ、土地の造成から自分たちで一つ一つ成し遂げて行きました。羊は日本では牛や豚ほどメジャーではないけれど、世界的視野で見たら魅力的な食材。自分たちで飼育方法を研究し、市場を切り開いて行くことに喜びや達成感があると言います。「今までいろんな仕事をして来ましたが、何か自分じゃなければできないことをやって行きたいと思っていました。これからは羊飼いとして生き、日本一の羊牧場を目指します」。

ふじさん牧場には、緑に囲まれた眺めの良い高台にカフェがあります。プロの料理人に協力をお願いし、パスタやピザ、カレーなど、家族みんなで気軽に食べられるような羊メニューを開発しました。「羊肉は臭みがあるとよく言われますが、それは昔粗悪な輸入肉だった時代があったからで、実は心理的なイメージによるものが大きいんです。初めて食べた方は、こんなにさっぱりしているんだと驚かれます。羊肉が苦手という人にも、おいしいと思っていただけるよう、極力クセを減らした食べやすい肉を心がけています」。購入した肉を家で食べる場合は、さっと火を通していただく「羊肉のたたき」をおすすめしているそう。シンプルに素材の味を楽しめます。

ワインの搾り粕にはポリフェノールが豊富で、羊が健康に育つ上で、赤身の肉質を向上させ、臭みを消す作用があります。肉の味を決める一番大きな要因は餌であるため、そこは徹底的にこだわっているそうです。他にも、羊の健康状態や肉質を良くする効果のあるものはなんでも試し、配合バランスを細かく分析して、餌の設計に力を入れています。「山梨のワインの搾り粕で育ったワインラムを、山梨のワインと一緒に味わってもらえたら嬉しいです。野菜に肉にワインに、山梨には一流の食材が揃っている。県産のものだけで高品質な食卓を作れることが、この土地の魅力ではないでしょうか」と藤田さんは語ります。