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更新日:2019年7月29日
やまなし観光推進機構では、県内の観光事業等において頑張っておられる企業経営者のみなさまへのインタビューを通じて、キラリと光る取組みをご紹介しております。
今回は、昭和35年(1960年)から甲州市勝沼町にて三代、60年近く観光ブドウ園を経営しておられる、農業生産法人 ㈱理想園の草塩正国 園主をご紹介いたします。
(理想園 入口)
農業生産法人 株式会社理想園 沿革
1960年(昭和35年)
創業者 故 草塩守氏(正国社長の祖父)が勝沼町下岩崎(現甲州市)にて屋号「マモル」としてブドウ栽培を始める。
1965年(昭和40年)
「お客様の理想の農園」を目指す思いから、名称を「理想園」に変更し、「ブドウ狩り観光農園」としてスタート。
1971年(昭和46年)
電話・FAXを利用した、全国発送のブドウの通信販売を開始。
1973年(昭和48年)
旅行代理店と提携した、バスツアーによる観光客の受け入れを始める。
1980年(昭和55年)
ブドウに続き、桃の栽培・販売を開始。
1992年(平成4年)
二代目 故 草塩正則氏(正国氏の父)が園主になる。
1995年(平成7年)
旅行代理店との契約を解除し、バスツアーによる団体観光客の受け入れをやめ、個人来園客をメイン顧客とする方針に変更。
2001年(平成13年)
桃狩りを開始。
2008年(平成20年)
理想園のIT環境の見直しを行い、ITの本格的活用を開始。
2010年(平成22年)
経済産業省の「経営力対象認定企業」に選定される。
2012年(平成24年)
三代目 草塩正国氏に園主交代。
2015年(平成27年)
農業生産法人株式会社理想園に組織変更して「理想園」をリニューアルオープン。
「観光農園経営者への転身」
―観光ブドウ園を事業承継しようと決断した理由は。
以前から「観光」には価値があると思っていました。
いかに情報発信して、お客様に情報を届けるかが大切だと思っていました。
事業承継を決断したのは、父親が病気になったことが大きいですね。
ただ、農業におけるリスクについては十分理解していなかったです。
お天気が相手の商売ですので、今でも不安は大きいですよ。
―ご自身は農業の経験はあったのですか。
高校を卒業し、都内の専門学校で経営を学び、農業とは関係がない仕事をしていました。
農業については、中・高校生までの手伝い程度の知識だけでしたね。
ただ、農作業の手伝いだけでなく、父が取引先を訪問する際に同乗したり、移動中に仕事の話をよく耳にしましたので、
ビジネスモデルの作り方は自然と身に付きました。
(糖度を確認中の草塩社長)
―それでよく農園継承を決断されましたね。
正直不安が大きかったです。
ですので、7年前に園主を引き継ぐまでに、5年以上の時間をかけましたね。
幸いにも、勤務先の理解を得られ、最初の転勤で山梨に戻してもらいました。
農園業務のウェートが高まるのにつれて、勤務も正社員から契約社員へ、さらにパート社員へと変更してもらい、仕事の比重を減らしていただきました。
ですので、長い時間をかけて、専業農家への転身に向けてソフトランディングできたのです。
―ソフトランディングする中で、観光農園のあり方も考えられたと思いますが、「理想園」の経営方針を教えてください。
やはり、「品質(クオリティー)の良いおいしい果物(商品)を提供すること」は、絶対です。そのためには、労力を惜しまないことですね。
そして、品質の良いおいしい果物で、「来園されたお客様を笑顔にさせる」ことでしょうか。
―品質の良いおいしい果物を作るのは相当の手間がかかるのではないですか。
確かに、手間はかかります。そのためには、どれだけ手間がかかっても、当園で働いていただいている従業員全員に、いかに経営方針を理解して作業してもらえるかが、
何よりも大切なことだと考えています。
現在、当園は30箇所の圃場を有しており、自分一人では到底対応できるはずもなく、従業員の力こそがカギなのです。
ですから、働いている従業員全員が私の気持ちを理解して取り組んでいただかないと、品質の高い果物を、均一に提供できなくなってしまいます。
従業員の一人一人と意思統一することには、常日頃から注力しています。
「魅力ある観光農園を目指して」
―「ブドウ狩り」、「もも狩り」が主力の観光農園にカフェを併設されていますね。
カフェの開設は、ブランディングの一つですね。
若いご家族に当園を選んでいただくための施設です。
(理想園のイートインスペース)
―若い家族に選んでいただくとは。
はい、当園では、基本的にはバスツアーなどの団体は受け入れない方針にしている一方、メインターゲットについては、
首都圏のお父さん、お母さんと子供二人の合計4名の家族旅行でお越しいただくお客様をイメージしています。
そのようなご家族連れのお客様に満足いただけるような観光農園づくりに注力しています。
家族4名が満足して笑顔になるような「もも狩り」、「ブドウ狩り」のプラン設定をしてご提供させていただいております。
ご家族で、収穫体験を心おきなく楽しんでいただきたいからです。
(ブドウ狩りで笑顔の子どもさん)
―カフェでは、どのような「食」を提供できるのですか。
お父さん、お母さんは、果物狩りで十分満足いただけるとは思いますが、果物の収穫体験だけではお子様は満足できないことも多く、
子供さんは同じものだけをたくさん食べることに飽きてしまうのでしょうね。
そこで、カフェを用意することで、当園の果実をフルに活用して、子どもの好きなジェラート類やフレッシュジュース類も提供できるように用意して、
家族4人の皆さんに満足していただけるようにしました。
―確かに、子どもは飽きるのも早いですよね。
はい。実際カフェを併設したことで、カフェ部門の売上も好調に推移しています。
お子様のニーズをガッチリ捉えることができたということでしょうね。(笑)
(カフェでジュースやジェラートを楽しむ子供たち)
「お客様にご満足いただくために」
―バス利用の団体ツアーでなく、個人旅行の家族連れをターゲットにすると、むしろ自家用車の集中が発生してチャンスロスが発生するのでは。
はい、テレビなどで当園が取り上げられると、来園者の入場渋滞が発生してしまいます。
実際、当園の入り口から国道20号線(勝沼バイパス)まで車がつながって渋滞が発生し、警察に怒られたこともあります。(笑)
おっしゃるとおり、チャンスロスが発生してしまいますので、当園では予約管理をシステム化して、受付担当者が一覧で時間ごとの予約状況を把握できるようにしています。
(予約管理システムの画面)
―でも、首都圏の家族層をターゲットにしていると、来場の時間はおおむね集中するのでは。
確かに11時から12時ころに予約が集中しますね。
―集中した場合はどのように対応するのですか。
時間ごとの受け入れ可能人数は限られます。
畑は広いのだから、どんどん入園料をいただいて受け入れればよい、という考え方があるかもしれません。
でも、当園ではお客様が喜んでいただける品質の高さを維持することこそが大切だと考えておりますので、
当園の受け入れ可能人数を超えた場合は、楽しんでいただける時間帯への変更をご案内させていただいております。
時間変更ができない場合は、申し訳ありませんがご来園をお断りさせていただいております。
―お断りもするのですか。
あくまでもご来園いただいたお客様に、満足のいくサービスを提供したいので、お断りすることもやむを得ないと考えています。
ただ、せっかくご連絡をいただいたお客様ですので、できるだけお断りをしないよう、予約管理システムを活用して、ご満足いただける時間をご提案させていただくよう対応しております。
ご来園者の予約管理は、おいしい果物を提供できなくなるリスクを回避することにもつながります。
―ところで、カフェスペースの土産品の種類が増えていますね。
ご来園いただくお客様は、その場でおいしい桃やブドウを召し上がっていただけますが、
「おいしい思い出のおすそ分け」としてお土産品をお求めになる来園者が多いです。
しかしながら、生の果実は日持ちしないので、日持ちする土産品のニーズも多いことから、加工品で日持ちがする商品の開発に取り組んでいます。
結果、土産品のアイテム数が増えております。今シーズンも新たに、ももジュースをご用意しました。ご期待ください。
(今年開発した、ももジュース)
(おみやげ物の種類が充実してきました)
「若手就農者の目標に!」
―話は変わりますが、理想園さんは耕作面積を拡大していると伺っていますが。
はい。昨年まで人気のある品種を長期間にわたって提供できるよう、標高の違う農地での作付けを増やして生産を拡大してきました。
ただ、現行の従業員数をもってして対応可能なところまで耕作面積を拡大しましたので、今後の耕作面積の拡大は考えていません。
現状の体制で耕作面積を増やすと、従業員がオーバーワークになってしまいます。
そうなっては、当園で働いている若手の新規就農希望者の「果実農家で生計を立てる」という夢を壊してしまいます。
若手就農者が、「農業はつらい」と思い離農してしまうと「ブドウ産地の勝沼」が滅びてしまうことにもなりかねません。
やはり、若い世代に、“農業は適正な労働で稼ぐことができる”というイメージをしっかり定着させ、若手就農者を増やしたいと思っております。
―昨年、研修生を3名採用されたと聞きましたが。
ホームページを改修して新規就農希望者を募集したところ、10名以上の申し込みがありました。
面接をして、千葉、愛知、山梨出身の3名を採用しました。
(作業に取り組む研修生)
―若手の就農希望者ですか。
結構、就農を考えている若者はいます。
でも、ただ体力があるから自分でもできるのではないかと安易に考えていても農業で成功しないと思います。
これからの農業は、企業経営と同様の感性をもって取り組むことが非常に重要だと考えています。昨年、採用した3名は、経営についての感性を持っている若者です。
新規就農者でも、「農業で生計を立てることができる」というイメージを当園で体験していただけるよう努力しています。
「地元で必要とされる企業になるために」
―最後になりますが、理想園様の今後の展開について教えてください。
第一に、来園していただけるお客様に、ご満足の笑顔をいただき、より良い観光農園となるよう更なる改善に取り組んでいきたいと思います。
二点目は、経営的な視点から、冬場の農閑期における事業として、「営農サポート」に積極的に取り組み、経営の安定性を確保するとともに「地域で必要とされる企業」の実現に取り組みたいと考えています。
―その「営農サポート」とはどのようなものですか。
昨今、営農者の高齢化が問題となっています。
特に高齢者においては、果樹栽培を行いたいが体力的な面で消毒や剪定など、農閑期の作業が負担となって離農される農家が出てきております。
「営農サポート」とは、そのような高齢農家の農閑期の各種作業を代わりに行い、事業継続をサポートする事業です。
当園でも、農閑期は多くの人手は必要なくなります。
また、当園では大きな機械も保有しておりますので、「営農サポート」で人手や機械の有効活用ができ、かつ地域の高齢農家のお手伝いもできるということです。
ある意味、今はやりの「シェアリングエコノミー」でしょうか。
―なるほど、それで「地域で必要とされる企業」を目指しているのですね。
地域の皆様が困っていることをお手伝いすることで、その地域で「理想園さんがいてよかったね。」と言ってもらえるような企業になりたいと思っています。
―ありがとうございました。山梨をおいしく楽しんでいただけるシーズンになりますので、お越しいただける来訪客の皆様を笑顔にしていただけることを期待しています。
常に来園客のニーズを意識しながら、クオリティーの高い、ご来援の皆様にご満足いただき、笑顔になれる商品の提供に取り組みます。
あとがき
8月になるとブドウ狩りのベストシーズンに突入します。
8月上旬はデラウェア、下旬からは、やまなし特産の巨峰、ピオーネ、9月になると皆様に大人気のシャインマスカットの収穫体験ができるようになります。
また、8月上旬は、桃の晩成種の「川中島白桃」もおいしくご提供いただけるとのこと。
カフェでいただきましたジェラート、とってもおいしかったです。
山梨にフルーツ狩りにお越しの際は、事前に各農園にご連絡を入れ、状況を確認のうえ、 やまなしの旬を召し上がりにお越しいただければ幸いです。
各農園とも、おいしいフルーツをご用意してお待ちしております。
(公益社団法人 やまなし観光推進機構 ツーリズムビジネス活性化センター 佐藤)
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