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更新日:2020年8月19日
長年にわたり山梨ワインの振興に取り組み、「甲州ワイン伝道師」の異名を持つ当機構理事長・仲田道弘による『甲州ワインの基礎知識』連載企画です。第3回は、甲州ワインと和食との相性について。これを読めばあなたも甲州ワイン通になれるかも!?全4回、隔週でお届けします。
「和食に合うワインはない」。こう言って、グルメ漫画『美味しんぼ』の原作者雁屋哲さんが山梨に来たのは1999年晩秋のことだった。勝沼の中央葡萄酒2階のゲストルームにワイナリー12社が集まって、甲州ワインと和食の相性をテーマに実験をしたときのことだ。雁屋さんがこう言ったのは、世界の代表的なワインと和食の醍醐味である「味噌、醤油、米酢、味の濃い魚、だし」とワインを合わせた結果だった。とくに「生ガキにはシャブリ」というのは、生臭くて食べられたものではないと漫画に描いていた。
『美味しんぼ』の原作者・雁屋哲さんと(写真右)
雁屋さんは、当時から20年以上前に日本で生産されたワインを全て試して「日本のワインに未来はない」と思い、進化していた甲州ワインは口にしていなかったという。ワイナリーに集合をかけた私としては大変困った記憶がある。
会場で、季節の野菜のテンプラ、漬物、ホウトウなどと甲州ワインを試した雁屋さんは驚く。「あなたが言っていたのはこういうことだったのか」と。料理とワインとの相性はフランスではマリアージュ結婚といわれ、赤ワインとチーズの様に両者がおいしさを増幅、1+1が2ではなく3にも4にもなることだったが、甲州は違う。雁屋さんの言葉を借りると「甲州は料理に寄り添って邪魔をせず、両者のいいところが残る」とのこと。
『美味しんぼ』第80巻 日本全県味巡り 山梨編
©雁屋哲・花咲アキラ・小学館
『美味しんぼ』第80巻 より
©雁屋哲・花咲アキラ・小学館
2008年、メルシャンによって雁屋さんが感じていたこの生臭み成分が明らかになる。ヘプタジエナールという香りの成分だ。魚介類などの酸化した油とワインの中の鉄分が口の中で反応して、瞬時にこの生臭みの香を出す。
ヘプタジエナール発生のメカニズム(出典:メルシャン株式会社)
文献を調べていくと、甲州ワインにはこの鉄分を含めたミネラル分がかなり低いことが分かった。これが和食と甲州ワインの相性の良さにつながっているのだ。
ワインのミネラル成分比較表
その後、10年かけて甲州ワインはこの和食との相性の方向でブラッシュアップ。白ワインの魔術師と言われたボルドー大学のデュブルデュー教授等の指導を仰ぎ、2010には世界のワインの評価基地であるロンドンに進出するのであった。
ボルドー大学のデュブルデュー教授(写真左から2番目)
Vol.4へ続く。(次回は9月2日掲載予定です)
【著者紹介】
甲州ワイン伝道師 仲田道弘
(公社)やまなし観光推進機構 理事長
山梨県庁入庁より、25年以上にわたりワイン産業の振興に携わり、「甲州ワイン伝道師」の異名を持つ。
また、グルメ漫画『美味しんぼ』の原作者・雁屋哲さんに甲州ワインの魅力を伝え、2001年に発行された『おいしんぼ 80巻 日本全県味巡り山梨編』に登場。
著書に、2018年『日本ワイン誕生考 知られざる明治期ワイン造りの全貌』、2020年8月25日には、明治時代14人のワイン関係者に焦点を当てた『日本ワインの夜明け~葡萄酒造りを拓く~』(株)創森社より発行。