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更新日:2024年11月16日
山梨県埋蔵文化財センターの久保田健太郎さんが「甲府城」の奥深い魅力について紹介する企画です。歴史好きな方はもちろん、歴史が苦手な方にこそぜひ読んでほしい連載です。久保田さんの解説で甲府城をもっと知りたくなること間違いなし!第4回は甲府城の石垣が、丈夫なヒミツ。
甲府城について紹介するのは・・・
山梨県埋蔵文化財センター
副主査・文化財主事
久保田 健太郎(39歳)
石器が専門だが、同じ石だからという理由で(~)、山梨県庁入庁1年目から甲府城の石垣の担当になる。以来、石垣の呪いにかかり、全然関係ない遺跡の発掘をしても高確率で石垣がみつかる。
およそ450年前の築城以来、何度も大地震に見舞われてきた甲府城。
甲府城下町が大きな被害を受けた一方で、内堀の中、つまり私たちが「お城」と呼んでいる範囲では、瓦が落ちたり塀にヒビが入ったりといった記録がほとんどで、石垣に大きな被害はなかったようだ。
実際、築城期の石垣が後に改修されたと考えられる箇所は、とても少ない。
甲府城の築城期の石垣は、なぜ大部分が今に残ることができたのか?
今回は、そのヒミツに迫ります!
江戸時代、甲府城は「元禄の大地震(1703年)」「宝永の大地震(1707年)」「安政の大地震(1855)」を経験している。
それでも、「文禄(1592~’96年)」から「慶長の初期※」に築造された古い時期の野面積み石垣がよく残ったのは、城の下に固い岩でできた地盤があったからだと考えられている。
※甲府城の場合、浅野家が和歌山へ移封する1600年頃までに築城されたと考えられている。
甲府城内を歩いていると、色々なところに岩が頭を出していることに気付く(写真1)。
(写真1) 甲府城内でみられる安山岩の岩肌
例えば、こんな所にも。下の写真は本丸にある銅門(あかがねもん)跡の石段(写真2)。よく見てみると、並べて置かれた階段石のふりをして、岩盤の頭が紛れている(写真3)。
(写真2) 石を並べて造られた、銅門の石段
(写真3) 左から2石目が、実は岩盤の一部
そう。甲府城が立地する小山は、実は岩山なのだ。
岩盤と石垣が、ガッチリとかみ合っているのがわかる箇所もある(写真4.)。中央のモアイみたいな岩が岩盤の一部で、それを取り込むように石垣が築かれている。
(写真4) 鍛冶曲輪門から本丸に登る途中にある岩盤
甲府城が立地するのは、そんな岩盤だらけの岩山だが、山の中には当然、谷筋もある。過去の地中レーダー探査等でも、甲府城内にはもともと谷になっていたところが埋まった(埋めた?)箇所があることが判明している。だいたい、そういう所は地が弱い。地面に浸透した雨水が山裾へ流れ出ていくのも、そういう谷の中だ。実際、埋没した谷があるとみられる辺りから、井戸の跡が発掘されたこともある。
実は、江戸時代に修理された数少ない石垣のほとんどが、埋没した谷の辺りに立地している。
これも、改修工事をしなければならないほどのいたみが石垣に現れるか否かに、地盤の固さがかかわっていることを教えてくれる現象だ。
甲府城の内堀は、岩山の裾野を一巡している。このお堀の辺りでは、岩盤は砂などの中に深くもぐりこんでいるらしく地盤が弱い。だから、お堀際の石垣は軟弱な地盤の上に築かれていると考えられるのだ。
そんな所に石垣を造ってしまって大丈夫なのだろうか?
もちろん、当時の技術者たちは、軟弱な地盤の上でも石垣を崩れにくくするような工夫をしている。写真5.は、お堀に面した石垣を修理した時の写真だ。石垣の下に、丸太が組まれているのがわかるだろうか。これが、軟弱な地盤の上に石垣を築くワザの正体である。
(写真5) 石垣の下に敷かれた丸太(「胴木」という)
石垣と地盤の関係は、石垣をしっかり造り上げる様々な技術の中の1つであって、他にも設計、材料の選択、積み方の工夫などに、当時の技術者たちの試行錯誤の跡をみることができる。
でも今回のお話は、いかに基礎を固めることが大事なのかが、よくわかるだろう。
そろそろ山々が赤や黄色に色づいてきた山梨(2024年11月15日現在)。
山梨観光をしながら、甲府城の岩盤を探してみよう!
県庁内の山梨県防災新館地下1階では、発掘調査でみつかった石垣の下の丸太(胴木)も展示してあるよ!ぜひ見てね!
次回のテーマは、甲府城の石垣に使われた大量の石材は、どこから来たのか??です!
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施設情報 |
山梨県埋蔵文化財センターでは、昨年も大盛況だった全5回のウォーキングイベント「甲府城が大好きな私たちと歩く、城・城下町さんぽ2024」を開催しています。 次回は2024年12月7日(土)、第4回のテーマは「今に残る甲府城下町のおもかげ(1)」です。 実際に甲府城を歩きながら、講師の丁寧かつ軽快なトークで甲府城について楽しく学べます。参加した後は、きっと誰かに話したくなる!? |