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更新日:2024年12月16日

【甲府城連載企画 vol.5】甲府城の石垣の石は、どこから来たのか?

山梨県埋蔵文化財センターの久保田健太郎さんが「甲府城」の奥深い魅力について紹介する企画です。歴史好きな方はもちろん、歴史が苦手な方にこそぜひ読んでほしい連載です。久保田さんの解説で甲府城をもっと知りたくなること間違いなし!第5回は甲府城の石垣の石は、一体どこから来たのか?その謎に迫ります。

甲府城について紹介するのは・・・

久保田さん

山梨県埋蔵文化財センター

副主査・文化財主事
久保田 健太郎(39歳)

石器が専門だが、同じ石だからという理由で(~)、山梨県庁入庁1年目から甲府城の石垣の担当になる。以来、石垣の呪いにかかり、全然関係ない遺跡の発掘をしても高確率で石垣がみつかる。

小高い丘を鎧(よろい)のように3段構成で取り囲む甲府城の石垣。巨石を荒々しく積んだ野面積み石垣は豪快で、カッコいい。

中でも、東日本では当時最大級の高さであった高さ約17mの石垣や、JRの線路わきに広がる幅約100mの巨大な石垣は壮観だ。

 

そんな石垣をみながら、ふと思うことがある。

「全部で、何個の石を使ってるんだろう?」

数えたことのある人がいたら、私にコッソリ教えてほしい。

 

実は、石垣修理の際には対象とした石垣の築石※全てに番号をつけて、1石1石の加工の特徴や傷みの状態などを記録している。石垣の規模にもよるが、大きな石垣であればどれも数100石が使われている。お城全体でいったら、何万石もあるだろう。

そんな大量の巨石を、いったいどこから持ってきたのだろう??

※大きな石。甲府城では大きな石と大きな石との間にできた隙間に「詰石」とよばれる小さな石が詰められている。

お隣の愛宕山(あたごやま)を歩いてみると・・・

 

甲府城の石垣の石は、みんな安山岩という種類の石だ。だから、石垣の材料にするのに手ごろな大きさ、形、強度の安山岩を採取できるところが、甲府城の石垣石材の原産地候補というわけだ。

前回(第4回目)、「甲府城の石垣は安山岩の岩盤の上に造られたので丈夫だった。」とお話したのを覚えているだろうか?

そう。甲府城の周辺は、なんと安山岩の産出地なのである。だから、甲府城の石垣の材料を採取したのも、意外とお城の近くなのかもしれない。

よし、石垣に使えそうな安山岩を探しにいってみよう!

 

まずやってきたのは、お城の北東側に、こんもりたたずむ愛宕山。

山梨県立科学館や、こどもの国もある、ハイキングにはもってこいの山だ。ここから望む甲府盆地の景色は、久保田の山梨絶景スポット上位3位以内にランクインしているから、山梨観光の際にはぜひ訪れてほしい。

「山の手通り(山梨県道6号甲府韮崎線)」から「子供の国入口」という名前の交差点を曲がって山を登っていく。くねくね道を少しいくと、おびただしい数の安山岩の巨石に出くわす(写真1)。

山梨県民であれば、通ったことのある人が多いだろうが、車で通り過ぎると意外と気づかない。

愛宕山の道路わきにみえる安山岩の転石
愛宕山の道路わきにみえる安山岩の転石。巨大だ。

同じような景色は、西麓に鎮座する八幡神社の裏山でも観ることができる(写真2)。

甲府城周辺の山の中には、石垣に使えそうな巨石がゴロゴロしている。こういう自然石を石垣に利用したのだろうか。お城周辺の豊富な石材環境が、甲府城の石垣づくりを支えていたのは間違いない。

八幡神社の安山岩の岩山
八幡神社の安山岩の岩山

お城の中の石切り場

甲府城が立地する「一条小山」という丘も、築城以前は愛宕山や八幡神社のような風景だったと考えられている。一帯にゴロゴロしている巨石は、石垣の石材に最適だっただろう。実際に岩盤から採石されたことがわかる痕跡も、発掘調査でみつかっている。

巨石は、岩盤に「矢穴」という長方形の穴をあけていき、そこに「矢」と呼ばれる楔(くさび)を打ち込んで割取られるのだが、甲府城の発掘調査では、この矢穴があけられた岩盤が発見されているのだ(写真3)。

甲府城の石垣は、甲府城の築城予定地やお城の近隣で採取可能な石材で築造されていたと考えられる。

甲府城の本丸で発見された岩盤
甲府城の本丸で発見された岩盤。右端に矢穴をもつ巨石がみえる

石垣の中にみられる「兄弟石」と呼んでいる特徴的な石も、お城のすぐ近くから石を採ってきて石垣をつくった証拠だと考えている。

1つの巨石を「矢」で2つに分割したものが「兄弟石」だ(写真4)。お城によっては「双子石」などと呼ぶこともある。もともと1つの石だったので、そう呼ばれる。それぞれの割れ面は綺麗に左右対称になっていて、矢穴の位置もピッタリあうのが特徴だ。

甲府城では、1つの石垣面の中に何組も兄弟石がみつかる。もし遠方から運んできた石材を積んでいたのだとしたら、兄弟の多くは運んでくる途中で離れ離れになってしまうだろう。

だから、その反対に何組もの兄弟が近くにいるということは、

(1)岩盤から石を剥ぎ取る

(2)矢穴をあけて分割する

(3)石を積んで石垣をつくる

の3つが、近場で完結していたことを示すのではないか…と私たちは考えているのだ。

兄弟石をさがしてみるのも、おもしろい。

中央の上下2石が兄弟石
兄弟石はいずこ?

正解はこちら・・・。

甲府城第5回_04_説明書き
中央の上下2石が兄弟石。矢穴が3つあいている。

くり返しになるが、甲府城の石垣は豪快でカッコいい。間近でみても遠くからみても、凄い迫力だ。

これだけでも、甲府城の石垣は存分に楽しめる。それに加えて、甲府城の石垣にみえる古さの証し(第2回と3回)、そんな古い石垣が崩れずに残ったヒミツ(第4回)、石垣の築造を支えたお城周辺の石材環境(第5回)などを知ると、もっともっと甲府城の石垣が好きになれるはずだ。

石垣の魅力は、「何年に誰が何をした…」という歴史の知識があまりなくても味わえる。

だから、「歴史好きじゃない」っていう人にも、勇気をだして一歩踏み出してみてほしい。

ぜったい楽しいから。

山梨の人にも知ってほしい。

甲府城と城下町って、すごいんだぜ。

 

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山梨県埋蔵文化財センターでは、昨年も大盛況だった全5回のウォーキングイベント「甲府城が大好きな私たちと歩く、城・城下町さんぽ2024」を開催しています。

次回(最終回)は2025年2月1日(土)、第5回のテーマは「今に残る甲府城下町のおもかげ(2)」です。

実際に甲府城を歩きながら、講師の丁寧かつ軽快なトークで甲府城について楽しく学べます。参加した後は、きっと誰かに話したくなる!?

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