インタビュー

  • インタビュー 今中大介
  • インタビュー 山本健一
  • インタビュー 佐藤優香
  • インタビュー 鈴木徹
  • インタビュー 成嶋徹

ホーム > インタビュー > インタビュー:山本健一

ここから本文です。

インタビュー 山本健一 日本を代表とするトレイルランナーが語る「幸せになるスポーツ」

色々な楽しみ方ができるのが山梨の山の魅力 日本を代表するトレイルランナー 山本健一さんが語る“幸せになるスポーツ” トレイルランニング。トレイルランニングインタビュー 山本健一 トレイルランナー 韮崎工業高校体育教師

自由な競技だなって思いました。

山本さんご自身のことについて教えてください。ご出身は山梨ですか?どんな子どもでしたか?

出身は、山梨の韮崎市です。小学生の頃はサッカーをやっていました。途中から興味が走ることに変わって中学校で陸上部に、そして高校では山岳部に入りました。山岳部に入ったのは、何かで日本一になりたいと思ったから。何の競技ならインターハイに出られるだろう、と。そこで山岳部なら出られるのでは、ということを聞いて。韮崎高校が当時一番強かったんです。

山岳部に入ってみてどうでしたか?

山なんてマイナーなスポーツだろうと思っていたら、いっぱい部員がいて。人気がある部活でびっくりしました。女子もいましたよ。陸上という競技は、タイムを縮めるために校庭のトラックを走るということがメイン。山岳部に入って最も違ったのは、走るのがトラックではなく学校の外だということ。タイムを気にすることもせず、駆け巡るという感じ。自由な競技だなって思いました。日常的には部活でトレーニングをして、夏休みなどの長期休暇や週末に顧問の先生に山へ連れて行ってもらっていました。合宿も楽しかったですね。一方で競技として大会があって、インターハイがある。楽しみのためだけにやっていたら、そこまで打ち込めなかったかもしれない。大会があるからそれに向けて目標を立てることができました。

高校の頃からやってることが変わってない(笑)

競技としての山岳では、何を競うのですか?

登山の総合的な能力です。体力と、山に関する知識。実際にラジオを聞いて天気図を書いて、天気予報をするんですよ。南から湿った空気が入るとこの山にぶつかって雲ができて雨が降りやすい、などしっかりと根拠を持たせて大会当日の天気を予測する。あとテントをしっかり建てられるか、炊事を衛生的に効率よく行えるかなど、山登りに関すること全てを審査されます。今は韮崎工業高校山岳・スキー部の顧問としてそれを教えています。高校の頃からやっていることが変わっていない(笑)。

トレイルランニングを本格的にやろうと思ったのはいつですか?

長野の大学を卒業後は、小・中学校で非常勤講師をしながらスキーのモーグル競技に取り組んでいました。夏に公園でトレーニングをしているとき、たまたま近所のおじさんに声を掛けられたんですよ。高校のとき山岳部でした、と自分の話もして。そうしたらそのおじさんに、こういうレースがあるんだけど出てみないかと言われて。そのとき紹介してもらったレースが日本山岳耐久レース、通称“ハセツネ”。それにその翌年に出たんです。距離は72kmでした。

それまでのトレーニングで、長い距離は走っていましたか?

走っていないです!韮崎高校の競歩大会が62kmかな。諏訪湖まで走るんですよ。50kmを超える距離というのはあんなものかなと高校のときのその経験を思い出しました。当時僕はトレイルランニング初心者。でも2,000人くらいの参加者の中、20番代でゴールしたんですよ。26位だったかな。それでこれはいけるんじゃないかな、もうちょっとやれば面白いことになるんじゃないかなという感触があって。それで次の年も出ました。ちなみにそのおじさんは登山がメインでトレイルランニングはトレーニングとしてやっているすごい人で、今でも付き合いがあるんですよ。この間一緒に還暦のお祝い登山をしてきました。槍ヶ岳を一緒に走ったり、たくさんの良い思い出があります。

山梨にはたくさんの種類の山があって飽きない

トレーニングでは普段、韮崎近辺を走ることが多いですか?
日本各地や海外のコースと比べて山梨の山の魅力はどんなところでしょうか?

トレーニングでは、韮崎のこの辺りを走ることが多いです。甘利山も近いですし、山だらけなのでたくさんの良いフィールドがあります。山梨には里山のような小さな山から富士山のような日本一の山までたくさんの種類の山があり、どこへ行っても色々な楽しみ方ができるから飽きない。トレーニングは、山梨でしかやらないです。南アルプスでも、甲斐駒ヶ岳は尾根がすごく急で長いんですよ。実は富士山よりも長い。甲斐駒ヶ岳を下から登っていくと苔生した樹林帯から一気に森林限界になって丸裸の、岩だらけの山になる。日向山は山頂付近が砂地でとても不思議な光景。富士山では山頂のお鉢の周りを走ったり。日本最高標高の高地トレーニングですよ。真夏でも昼だと人がばらけているので意外と走りやすいんです。

一番好きな山は、甲斐駒ヶ岳。長い尾根を登って行けるというのが良い。近くに尾白川が流れているので、頂上まで走って帰ってきてそのまま川に飛び込めるんですよ、ジャボンと。走って熱くなった体をすぐに冷やせるというのがもう最高。あと一番よく登っているのは、韮崎の茅ヶ岳。高校のときから200回以上は登っていますね。沢の中を落ち着いて登って行くコースや尾根を登って行くコースなど、小さい山なんですけどバリエーションが豊かで楽しいですね。

山が良い心、謙虚な心にしてくれる

平地を走るマラソンとの違いは何でしょうか?

ランニングとの違いというのは、変化がより大きいということ。景色の変化も大きいし、トレイルランニングでは標高が出てくるので、達成感が得られやすく満足度が高い。登山は重たい靴を履いて重たい装備を持って歩く。トレイルランニングは軽い靴で必要最低限の装備で行けるので、登山より気軽。基本は歩きで良いと思いますが平らなところ、緩い下りのところで走れば良いんです。林の中を走るとスピード感が味わえるんですよ。そういうところが楽しいなって思う。

この間も70名ほどの高校生を連れて八ヶ岳を走ってきたんですけど、みんな「楽しい!」ってすごくはしゃいで。下りだとがむしゃらに走らなくてもスピードが出て疾走感が味わえる。それがこの競技の魅力のひとつかなと思いますね。一方アスファルトのように平らではなく常に変化がある道なので、足首をひねるなど怪我をしやすいというリスクがあります。それは足首にサポートするものを巻くなどして十分に予防してくださいね。あと怪我をしないために必要なのは、集中力です。地面をしっかり見る。景色を見るのは上り登りのときだけにして、下りのときは足元に集中しないと危険です。

山本さんにとって、トレイルランニングならではの魅力とは何でしょうか?

頂上まで登ったら、そこで水を飲んだりお菓子を食べたりしながら良い景色を見て、一緒に行った仲間と話をして…そういう時間ですね。僕にとってはタイムを競う要素より、登山の要素の方が強いかな。山へ行くと皆、走っているひとや大会の役員、スタッフのひとにあいさつをするんですよね。自然とそういう気持ちになるんです。山が良い心にしてくれる、そういう感じがします。そして謙虚になりますね。山という環境は少なからず町をマラソンするのとは違い厳しいので、自然と謙虚になりやすい。

一緒に行く仲間とは例えレース中であっても話をします。海外でもトップ選手ともお互いのことを話しますね。「調子どう?」って。コミュニケーションをとりながら一緒に走ることは、大きな楽しみのひとつ。マラソンのトップ選手が話をしながら走るというのはテレビでも見たことがないけれど、山の場合は本当によく話す。とても明るいスポーツだと思いますよ。和気あいあいとしていて、幸せになるスポーツ。今の日本を元気にするスポーツかもしれませんね。

山本健一プロフィール

1979年山梨県韮崎市出身。山梨県立韮崎工業高校で体育教師として勤務する傍ら、トレイルランナーとして数々のトレイルレースに挑戦している。2012年5月の「ウルトラトレイル・マウントフジ」で日本人最高の3位に入賞、同年8月の「グラン・レイド・デ・ピレネー」で日本人初の優勝という快挙を果たした。

PAGE TOP